
それから数週間が経ち、翔太のカフェには連日多くの客が訪れるようになっていました。しかし、翔太は玲子の果樹園の秘密に対する興味を抑えきれず、ある夜、思い切って果樹園を訪れることにしました。シャルロッテが吠え声をあげる中、翔太は一つの木に目を留めました。それは玲子が大切にしていた、あの特別な果実の木でした。
すると、玲子が現れました。彼女は落ち着いた表情で、「その木は触れてはいけない木なんだよ」と静かに語り始めました。彼女は、若い頃にこの果樹園を手に入れたこと、そしてその木には彼女の亡き夫の魂が宿っているという伝承があることを話しました。夫が遺した果樹園を守るため、玲子は果実に込められた思いを一人で背負い、誰にも分け与えることなく守ってきたのです。
翔太は玲子の話に深く胸を打たれ、「この果樹園の物語も含めて、紅茶として人々に伝えたい」と提案しました。それはただのビジネスアイディアではなく、玲子の想いを現代に受け継ぐ方法として心からのものでした。
玲子はしばらく考え込んでから、静かに頷きました。「もし私がこの果実を使ってくれる人を信じるなら、あなたかもしれないわね」と。こうして、翔太のカフェでは「果樹園の秘密」と題した紅茶が新たにメニューに加わり、訪れる人々に玲子の果樹園と彼女の亡き夫の物語が語られるようになりました。
果樹園の果実は、物語とともに少しずつ、静かにその香りを町中に広げていきました。玲子はシャルロッテと一緒に果樹園を見守りながら、ふと空を見上げます。そこには、まるで彼女を見守るように、青く澄んだ空が広がっていました。
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