【短編小説】新しい土 / 前編

その他の記事

都心から遠く離れた山間の村、光野(ひかりの)。

その静けさを破るように、都会の若者たちが大きなトラックで乗り込んできた。
彼らは荒れ果てた田畑を再生しようとする「リスタートプロジェクト」の一員だった。リーダーは24歳の篠原翔太。大学で環境科学を学び、都会の一流企業に就職したものの、理想とかけ離れた生活に絶望し、田舎での挑戦を決めた。

「なんでまた農業なんかに?」と呆れる村人の声。若者たちがくたびれた農機具を整備し、雑草だらけの畑を耕し始めても、村人たちは遠巻きに見ているだけだった。

そんな中、一人だけ彼らに優しい眼差しを向けたのが、村の茶屋「風見庵」を営む老婆・綾乃だった。篠原が野菜の収穫で手を切った際、わざわざ包帯を持ってきた綾乃は、「若い人がこんな田舎で頑張ってくれるのは嬉しいよ」と笑みを浮かべた。

翔太は綾乃に思わず問いかける。「どうして応援してくれるんですか?正直、僕たちだってどうなるか分からないんです。」
綾乃は静かに茶を注ぎながら答えた。「昔、この村には人がたくさんいてね。みんな土を愛して、誇りを持って暮らしていた。でも時代が変わり、若い人が出て行ってしまった。君たちがまたここで土に触れてくれる。それだけで、希望を感じるんだよ。」

翔太はその言葉に背中を押された。だが、農業は予想以上に厳しかった。夏の暑さ、虫害、そして経験不足。収穫期を迎えても、彼らが得た作物はほんのわずかで、売り物になるような品質ではなかった。

「やっぱり素人には無理だよ。」村人たちの冷たい声が響く中、翔太たちは途方に暮れた。しかし、そんな時、綾乃がふと口にした。
「白耀米(はくようまい)って知ってるかい?この村の誇りだった高級米なんだけどね、今じゃ誰も作らなくなった。」

翔太はその言葉に心を動かされ、仲間と共に調べ始めた。村の奥にある古い倉庫を掘り起こし、ついに白耀米の種籾を見つけた。それは綾乃が若い頃に村の長老から受け継いだものだった。

「こんな古い種、芽が出る保証なんてないぞ。」と仲間が口をそろえる。
しかし翔太は微笑んだ。「保証なんていらない。ただ、信じて蒔くだけだ。」

冬の間、彼らは種を守りながら土壌改良に励んだ。そして春、村中が彼らの作業を見守る中、白耀米の種が静かに蒔かれた。

数週間後、小さな芽が土を押し上げ、光野の畑に新しい命が宿る。その光景に、村人たちは静かに息を呑んだ。


後編 ▶


[ojisama]

タイトルとURLをコピーしました