【短編小説】35歳、ドライフルーツが導いた恋 / 前編

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35歳、独身、そして果物好き。
里奈は新宿のオフィス街で働く、どこにでもいるようなOLだ。朝9時から夜7時までデスクに向かい、モニターに映る数字とにらめっこする日々。上司のプレッシャー、部下のフォロー、会議の資料作りと、仕事には事欠かないが、何かが物足りない。恋愛も一度は考えたが、しばらく遠ざかっていた。

そんな彼女にとって、唯一の楽しみが果物だった。イチゴやマンゴー、ブルーベリーなど、色鮮やかで甘酸っぱい果実を食べるたび、疲れた心が少し軽くなるような気がした。けれど、仕事で遅くなると新鮮な果物を買いに行く時間もなく、ストレスがたまる一方だった。

ある日、里奈は新宿のオフィスからの帰り道に、ふと目に留まった小さな店に引き寄せられた。それは、ドライフルーツ専門店「ソノママ」。ガラスの向こうには、カラフルで美しいドライフルーツが並んでおり、ピカピカと輝く照明が、まるで宝石のようにそれらを照らしていた。すぐに入店した里奈は、店内に漂うほのかな甘い香りに心が癒されるのを感じた。

「こんにちは、いらっしゃいませ。」
明るい笑顔の店員が声をかけてくれる。手に取ったのは、「ビューティーベリーミックス」という、数種類のベリーがミックスされたドライフルーツだ。甘みと酸味が絶妙で、噛むほどに口いっぱいに果実の風味が広がる。「おいしい…」と思わず口をついて出た。

その時、ふと隣に目をやると、30代後半くらいの男性が立っていた。髪が少し乱れていて、仕事帰りのように見えた彼もまた、いくつかの商品を手に取って眺めている。彼は無意識に微笑みを浮かべながら商品を見つめており、その顔にはどこか親しみやすさがあった。

「あなたも、ドライフルーツが好きなんですか?」

彼が声をかけてきたとき、里奈は驚きつつも、何か特別な気持ちが胸に湧き上がるのを感じた。彼の名前は拓海。話を聞くと、彼も独身で、疲れた日常を癒すためにこの店に通っているらしい。共通の趣味を持つ二人は、自然と話が弾み、気が付けば閉店間際まで立ち話をしていた。

「来週のこの時間、また会いませんか?」と拓海が言ったとき、里奈の胸は少し高鳴った。思いがけない出会いに戸惑いながらも、彼女は小さくうなずいた。果物とドライフルーツの話、そして何気ない会話の中で、二人は少しずつお互いのことを知り始めた。


後編 ▶


[ojisama]

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