【短編小説】桃の木が繋ぐもの / 前編

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28歳の結衣は、東京のオフィス街で働くOLだった。

早朝から遅くまで働きづめの毎日に、彼女は次第に疲弊していた。かつての夢や希望は、いつの間にか薄れてしまった。そんなある日、部屋の片隅で埃をかぶった古いアルバムを見つけた。

アルバムには、子供の頃に訪れた祖父母の村での写真が並んでいた。その中にひときわ目を引く1枚があった。桃の木々に囲まれた果樹園で、祖父の大きな手に支えられながら微笑む幼い結衣の姿。その写真は、結衣にとって幸せな思い出の象徴だった。

祖父の言葉も蘇ってきた。「桃はな、人と人を結ぶ果物なんだよ。甘いだけじゃなく、心をほぐしてくれるんだ。」その言葉が妙に胸に響き、結衣は祖父母の村へ行く決心をした。

久しぶりに降り立った駅は、かつての賑やかさを失っていた。車窓から見えた風景も、昔とはまるで違う。草が生い茂った畑、朽ちかけた木造の家々。祖父母の家も同じだった。家の周りは荒れ果て、桃の果樹園も手入れが行き届かず、どこか寂しげだった。

そんな中、結衣は畑で作業をしている青年の姿を見つけた。智也だ。かつて一緒に遊んだ幼馴染だった。智也は驚きつつも笑顔で迎えてくれた。

「ずいぶん久しぶりだな。都会の暮らしはどうだ?」

「まあね、忙しい毎日だよ。でも、なんだか疲れちゃって……智也は?」

「俺はこの村で農業を続けてるよ。でも、みんな出て行っちゃってさ。」

その夜、智也は村の現状を語った。
高齢化と人口減少で農業を続けるのが難しくなり、桃の果樹園も衰退の一途を辿っているという。
祖父が愛した果樹園も、誰も引き継ぐ者がいないまま荒れていく。

結衣は、祖父の「桃は人を結ぶ」という言葉を思い出しながら、自分に何かできることはないかと考え始めた。

「この果樹園をもう一度人が集まる場所にしたい」
と結衣が話すと、智也の目が一瞬輝いた。


後編 ▶


[ojisama]

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