
それから週に一度、二人は「ソノママ」で待ち合わせるようになった。彼らが共有するのは、果物への愛情と、日常のささやかな癒しを見つけること。里奈にとって、拓海と過ごすこの時間は、次第に日々の支えとなり、心のよりどころになっていった。
ある日、二人はベリーのドライフルーツを食べながら、拓海が子どもの頃に住んでいた田舎の果樹園の話を聞かせてくれた。彼の祖父が経営する小さな果樹園で、夏には桃や梨、冬にはみかんがたわわに実ったという。祖父と共に果実の収穫を手伝い、その場で皮をむいて食べる果物の美味しさは格別だったそうだ。その話に耳を傾けていると、里奈もまるでその果樹園にいるような温かい気持ちになった。
しかし、年末が近づくにつれ、里奈の仕事はますます忙しくなっていった。拓海との「ソノママ」での待ち合わせも、何度か行けない日が続いた。心が急かされるような毎日の中で、ふと「彼は今、どうしているのだろうか」という思いが頭をよぎった。そして、彼女は仕事帰りに久しぶりに「ソノママ」へと足を運んだ。
けれど、拓海の姿はそこにはなかった。彼がいつも手に取っていた「ビューティーベリーミックス」の棚の前で、里奈はぼんやりと立ち尽くした。あの会話や笑顔が心に染みて、彼のことをもっと知りたいという想いが、今になって強く胸に込み上げてくる。
その瞬間、スマートフォンが震えた。メッセージの通知には、拓海からの一言が表示されていた。
「里奈さん、今日ソノママで待っています。」
久しぶりのメッセージに、里奈の心は踊った。まるで高校生のように胸が高鳴り、急いで店へと駆けつけた。拓海は、店の入口で待っていた。彼もまた、久しぶりの再会に少し緊張している様子だったが、里奈の顔を見てほっとしたように微笑んだ。
「お忙しかったんですね。でも、また会えて嬉しいです。」
その一言に、里奈は不思議な安心感を覚えた。仕事や日常に追われ、なかなか立ち止まることができなかった彼女だが、この瞬間だけは、穏やかで優しい気持ちに包まれていた。二人は「ソノママ」で新しいドライフルーツを選び、お互いの好みを少しずつ探りながら歩き出した。
「こんな風に、あなたと果物の話をするのが、実は僕の楽しみなんです。」
その言葉に、里奈の胸は少しずつ温かくなり、言葉にできない感情が込み上げてきた。彼女もまた、拓海との出会いが人生を少し変えてくれたことに気づいた。そして、これからもこの小さな果物の物語が続いていくことを、心のどこかで強く願った。
[ojisama]
